行持 下(15)

初祖あはれみて昧旦(マイタン)にとふ、
「汝、久しく雪中に立って、当に何事をか求むる。」
かくのごとくきくに、二祖、悲涙ますますおとしていはく、
「惟
(タダ)願わくは和尚、慈悲をもて甘露門を開き、広く群品(グンボン)を度(ド)したまえ。」

初祖 達磨は、慧可を哀れに思って明け方に尋ねました。
「おまえは長い間 雪の中に立って、一体何を求めているのか。」
このように尋ねると、二祖 慧可は悲しみの涙をますます落として答えました。
「どうかお願いでございます、和尚様。お慈悲をもって甘露の法門を開き、広く人々をお救い下さい。」

かくのごとくまうすに、初祖曰く、
「諸仏無上の妙道は、曠劫
(コウゴウ)に精勤(ショウゴン)して、難行能行(ナンギョウ ノウギョウ)す、非忍にして忍なり。豈(アニ)小徳小智、軽心慢心を以て、真乗を冀(コイネガ)はんとせん、徒労(イタズラ)に勤苦(ゴンク)ならん。」

このように答えると、初祖は言いました。
「諸仏の無上の妙道は、永劫に精進して、行じ難きことをよく行じ、忍び難きことを忍ばねばならぬ。徳や智慧の少ない者が軽々しく慢心して、真の宗乗を求めようとしても、徒に苦労するだけである。」

このとき、二祖ききていよいよ誨励(カイレイ)す。ひそかに利刀(リトウ)をとりて、みづから左臂(ヒダリヒジ)を断って置于師前(チウ シゼン)するに、初祖ちなみに、二祖これ法器なりとしりぬ。乃ち曰く、
「諸仏、最初に道
(ドウ)を求むるに、法の為に形を忘る。汝今、臂を吾前(ワガマエ)に断つ、求むること亦(マタ)可なること在(ア)り。」

この時、二祖はその言葉を聞いて、いよいよ自らを励ましました。そして、密かに鋭い刀を取って自ら左臂を断ち、それを師の前に置きました。初祖は、これによって二祖が法の器であることを知り、そこで言いました。
「諸仏が最初に道を求めた時には、法の為に自分の身体を忘れたと言う。おまえが今、臂を私の前で断って道を求めていることも、またよしとすべきであろう。」

これより堂奥に入る。執侍(シュウジ)八年、勤労千万、まことにこれ人天の大依怙(ダイエコ)なるなり、人天の大導師なるなり。かくのごときの勤労は、西天(サイテン)にもきかず、東地はじめてあり。

慧可は、この時から師の堂奥に入りました。そして師に仕えること八年、あらゆる修行に力を尽くしました。まことにこの人は、人間界天上界の大きな心の拠り所であり、人間界天上界の大導師でした。このように求道に力を尽くした人は、インドでも聞かず、東地中国でも初めてのことでした。

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