行持 下(37)

先師いはく、「提挙(テイコ)聡明にして山語(サンゴ)を照鑑(ショウカン)す、皇恐(コウキョウ)に勝(タ)へず。更に望むらくは台臨(ダイリン)、鈞候万福(キンコウ バンプク)

先師は言いました。「長官はご聡明であり、私の言葉をお聞き下されましたことは、まことに恐れ多いことでございます。更に願う所は、ご来臨 万福ならんことを。

山僧 陞座(シンゾ)の時、甚麽(ジンモ)の法をか説得(セットク)する、試みに道(イ)へ看(ミ)ん。若(モ)し道ひ得ば、銀子一万鋌(ギンス イチマンジョウ)を拝領せん。若し道ひ得ずんば、便ち府使(フシ)銀子を収めよ。」

それでは、私が説法した時に、どのような法を説いたのか、試しに言ってみてください。もし言うことが出来れば、銀貨一万鋌を頂きましょう。もし言うことが出来なければ、長官はどうぞ銀貨をお収め下さい。」

提挙、起(タ)って先師に向って云く、「即辰(ソクシン)伏して惟(オモン)みれば和尚、法候動止万福(ホウコウ ドウシ バンプク)。」

長官は、立ち上がって先師に答えました。「ただいま和尚様におかれましては、ご機嫌 万福に存じ上げます。」

先師いはく、「這箇(シャコ)は是れ挙(コ)し来る底(テイ)、那箇(ナコ)か是れ聴得底(チョウトクテイ)なる。」

先師は言いました、「それは私が先ほど申し上げたことです。どのように説法をお聞きになられましたか。」

提挙 擬議(ギギ)す。先師いはく、「先公の冥福円成(メイフク エンジョウ)なり、襯施(シンセ)は且(シバラ)く先公の台判(ダイハン)を待つべし。」

長官が何か答えようとしていると、先師は言いました。「亡くなられた御尊父の冥福は円満に果たされました。お布施の方は、一先ず御尊父の審判を待つことにしましょう。」

かくのごとくいひて、すなはち請暇(シンカ)するに、提挙いはく、「未だ不領(フリョウ)なるをば恨みず、且(タダ)喜ぶ師を見ることを。」

先師はこのように言って暇乞いをすると、長官は言いました。「お布施をまだ受け取って頂けないことを残念には思いません。ただ師にお目にかかれたことを嬉しく思います。」

かくのごとくいひて、先師をおくる。浙東浙西(セットウ セッセイ)の道俗、おほく讃歎(サンタン)す。このこと、平侍者(ヘイ ジシャ)が日録にあり。

長官は、このように言って先師を送りました。この話を聞いた浙江省の東西の道俗は、その多くが賛嘆したと言います。このことは、平侍者の日々の記録にあります。

平侍者いはく、「這(コ)の老和尚は、得べからざる人なり、那裏(ナリ)にか容易(タヤスク)く見ることを得ん。」

平侍者は言いました、「この老和尚は得難い人である。このようなお方には、何処でも容易にはお目にかかれないであろう。」と。

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