三時業(4)

第七日に至って天晴れ路現る。人に帰心有り、羆(ヒグマ)既に知り已(オワ)りて、復 甘果を取り、飽かしめて之を餞(ハナムケ)し、送りて林外に至り、慇懃(オンゴン)に別れを告ぐ。

七日目になると空は晴れて道が現れました。樵(キコリ)は家に帰ろうと思いました。羆は樵の心を知って、また甘い実を取って来て十分に食べさせ、これを餞別としました。そして林の外まで見送って、ねんごろに別れを告げました。

人 跪(ヒザマヅ)き謝して曰く、「何を以てか報いん。」
羆言く、「我今余報を須
(モト)めず、但 比日(ヒゴロ)我汝が身を護りしが如く、汝我命に於いても、亦願はくは是の如くすべし。」
其の人敬諾
(キョウダク)し、担樵して山を下る。

樵はひざまずいて感謝して言いました。「あなたの御恩に、どう報いればよいものでしょう。」
羆は答えました、「私は今、後の果報を求めてはいません。ただ、日々私があなたの身を護ったように、あなたもまた、私の命を護ってくれることを願うだけです。」
樵は羆の言葉を謹んで承諾し、薪を担って山を下りました。

二人の猟師に逢う、問うて言く、「山中にして何(イカ)なる蟲獣(チュウジュウ)を見つる。」樵人答えて曰く、「我亦余獣を見ず、唯一の羆を見るのみ。」

樵は二人の猟師に出会いました。猟師は尋ねました。「山の中で何か獲物を見なかっただろうか。」
樵は答えて、「私はあまり獲物を見かけなかったが、ただ羆を一頭見ただけだ。」

猟師 求請(グショウ)すらく、「能(ヨ)く我に示すや不や。」樵人答えて曰く、「若し能く三分の二を与へば、吾当に汝に示すべし。」猟師 依許(イキョ)す。

猟師は懇願して言いました。「我々に、その羆の居場所を教えてもらえないだろうか。」
樵は答えて、「もしその肉の三分の二を私に与えるのなら、お前たちに居場所を教えよう。」
猟師は承諾しました。

相与(アイ クミ)して俱(トモ)に行き、竟(ツイ)に羆の命を害す。肉を分かちて三と為し、樵人両手をもて羆の肉を取らんと欲(ス)るに、悪業力(アクゴウリキ)の故に双臂(ソウヒ)(トモ)に落つること、珠縷(シュル)の断つが如く、藕(ハチス)の根を截るが如し。

そこで互いに親しく連れ立って行き、遂に羆を殺しました。そして肉を三つに分けて、樵が両手で肉を取ろうとすると、悪業の力によって二つの臂が落ちたのです。その様は、数珠の糸が切れるようであり、また蓮の根が折れるようでした。

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