行持 下(26)

山僧(サンゾウ)行業(ギョウゴウ)取ること無うして、忝(カタジケナ)く山門に主たり、豈(アニ)(イナガ)ら常住(ジョウジュウ)を費やして、頓(トン)に先聖(センショウ)の附嘱(フショク)を忘る可けんや。

山僧(私)は修行も至らぬ身で、忝ないことに寺院の主となった。どうして何もせずに寺院の資産を費やし、すぐに先の仏祖の依嘱を忘れることが出来ようか。

今 輙(スナワ)ち略(ホボ)古人の住持(ジュウジ)たる体例(タイレイ)に学(ナラ)わんと欲す。諸人と議定(ギジョウ)して更に山を下らず、斉(サイ)に赴かず。

今は一先ず、昔の仏祖の住持された規則に倣うこととする。それは、諸人と合議して全く山を下りず、また在家のお斎の供養に赴かない。

化主(ケシュ)を発せず、唯 本院の荘課(ソウカ)一歳の所得をもて、均(ヒト)しく三百六十分と作(ナ)して、日に一分を取って之(コレ)を用い、更に人に随って添減(テンゲン)せず。

寄付を募る僧を派遣せず、ただ当寺院の荘園一年分の所得を等しく三百六十に分けて、日にその一を使い、人数によって全く増減をしない。

以て飯に備(ソナウ)べくんば、則(スナワチ)飯と作し、飯と作して足らずんば、則 粥と作し、粥と作して足らずんば、則 米湯(ベイトウ)と作さん。

それでもって飯に炊ければ飯にし、飯に足らなければお粥にし、お粥に足らなければ重湯にするのである。

新到相見(シントウ ショウケン)も茶湯のみ、更に煎点(センテン)せず。唯 一茶堂を置いて、自ら去って取り用ゆ。務めて縁を省て、専一に辨道(ベンドウ)せんことを要す。

新たな入門僧の面会も茶湯だけを供して茶菓子などは出さない。それもただ茶を用意した部屋へ自ら行って、自由に飲んでもらうのである。努めて用事を省いて専一に精進してもらうためである。

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