出家功徳(5)

転輪聖王(テンリンジョウオウ)は、八万歳以上のときにいでて、四洲を統領せり、七宝具足せり。そのとき、この四洲みな浄土のごとし。輪王の快楽(ケラク)、ことばのつくすべきにあらず。

偉大な統治者である転輪聖王は、人の寿命が八万歳以上であった時代に世に出て、四方の国々を統治した。この王は、輪宝、象宝、紺馬宝、神珠宝、玉女宝、主蔵臣宝、主兵臣宝などの七宝を所有していた。この輪王に統治された四方の国々は、みな仏の浄土のように安穏であり、王の日々の楽しさは、言葉では言い表せないほどであった。

あるいは三千界統領するもありといふ。金(コン)(ゴン)銅 鉄輪の別ありて、一二三四洲の統領あり。かならず身に十悪なし。

輪王の中には 宇宙を統治する王もあるといわれている。この輪王には 金輪王、銀輪王、銅輪王、鉄輪王という王の区別があり、金輪王は東西南北の四国を、銀輪王は東西南の三国を、銅輪王は東南の二国を、鉄輪王は南の一国を統治するという。そして これらの王には、決して殺生、偸盗、邪淫、妄語、綺語、悪口、両舌、貪欲、瞋恚、邪見などの十悪は無かった。

この転輪聖王、かくのごときの快楽にゆたかなれども、かうべにひとすぢの白髪おひぬれば、くらゐを太子にゆづりて、わがみすみやかに出家し、袈裟(ケサ)を著(ヂャク)して山林にいり修練し、命終(ミョウジュウ)すればかならず梵天(ボンテン)にうまる。

転輪聖王は、このように楽しみが豊かであったが、頭に一本の白髪が生えれば、王位を太子に譲って、自分は速やかに出家し、仏衣の袈裟を着けて 山林に入って修練し、その命が終われば必ず梵天に生まれた。

このみづからがかうべの白髪を銀函(ギンカン)にいれて、王宮にをさめたり。のちの輪王に相伝す。のちの輪王、また白髪おひぬれば、先王に一如(イチニョ)なり。

また、この自分の白髪を銀の箱に入れて王宮に納め、後の輪王に伝えた。そして後の輪王もまた、白髪が生えれば先王に倣って王位を譲り出家した。

転輪聖王の出家ののち、余命のひさしきこと、いまの人にたくらぶべからず。すでに輪王八万上といふ、その身に三十二相を具せり。いまの人およぶべからず。

転輪聖王の出家後の余命の長いことは、今の人と比べものになりません。既に輪王の寿命は八万歳以上といわれ、その身には三十二の好相を具えているのです。とても今の人の及ぶところではありません。

しかあれども、白髪をみて無常をさとり、白業(ビャクゴウ)を修して功徳を成就(ジョウジュ)せんがために、かならず出家修道するなり。

しかしながら 自分の白髪を見て無常を悟り、善業を修めて天界の功徳を成就するために、必ず出家して仏道を修めたのです。

いまの諸王、転輪聖王におよぶべからず。いたづらに光陰を貪欲のなかにすごして出家せざるは、来世くやしからん。

今の諸国の王で、この転輪聖王の行いに及ぶ者はおりません。徒に月日を貪欲の中に過ごして出家しないことは、来世になって悔やむことでしょう。

いはんや小国辺地は、王者の名あれども王者の徳なし。貪じてとどまるべからず。出家修道せば、諸天よろこびまぼるべし、龍神うやまひ保護すべし。諸仏の仏眼、あきらかに証明し、随喜(ズイキ)しましまさん。

まして小国辺地では、王者の名前はあっても王者としての徳が無く、ただ権勢をむさぼるばかりで止むことがありません。出家して道を修めれば、諸々の天神は喜んで守ってくださり、龍神も敬って保護してくれるのです。また諸仏の眼がその人をはっきりと証明し、喜んでくださるのです。

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